さんま 苦いか 塩つぱいか
(佐藤春夫詩「秋刀魚の歌」より)
サンマは江戸時代の人々にはあまり人気のない魚だったそうです。脂っこさが口に合わず下品な魚とされていたようで、特に武士は、形が刀に似ていることもあり、口にするのを嫌がったのだそうです。
そう言えば、落語「目黒のさんま」でも、目黒で食べた焼いたサンマの味が忘れられない殿様が、所望して出てきたサンマは、脂も骨もすっかり抜かれ、形も味もグズグズになったものだったなあ。
サンマという呼び方は昔からあったようで「三馬」と書かれたりしていますが、秋刀魚という漢字が使われるようになったのは大正時代から。
秋に獲れる細くシュウッと銀色に輝く刀のような魚。
誰が思いついたのか・・・、完全に当て字でキラキラネームですが、絶妙な表現ですね。
「秋刀魚の歌」の苦いは、たぶんハラワタでしょう。塩つぱいは塩焼きの塩、そして涙でしょうか・・・。
秋になると食べたくなる魚。今回は秋の味覚・サンマの栄養や焼き方の紹介です。
サンマは北太平洋に広く生息する、大群で泳ぐ回遊魚
寿命は約2年で、35cmほどまで成長しながら大群をつくって移動する魚です。
海流とともに北上し、夏はオホーツク海あたりを回遊しながら成長。8月頃から11月にかけて、寒流に乗って北海道から日本近海を通り九州沖まで南下するのだそうです。9月中旬から10月中旬頃が、最も脂の乗った美味しい旬の時期と言われています。
美味しいサンマの見分け方
以前、スーパーの鮮魚売り場で、発泡スチロールに氷と共に入れられて売られているサンマを見ながら、母親が「活きのいいのを選んでね」と8歳ぐらいの男の子に頼むと、その子が「お母さんダメだ!全部死んでる!!」と話しているのを耳にしたことがあります(笑)。
新鮮なサンマは、背が青黒くつややかで腹が銀白色に輝き張りがあり、口先が黄色く目の周りが透明で澄んでいるもの。
脂の乗ったサンマは、エラの上あたりから尻尾にかけて、こんもりしています。

アニサキスという寄生虫がいることがあり食中毒が怖いため、最近は、刺身は刺身用として別に売られ、一尾丸ごとのモノは焼いたりする加熱用として売っているスーパーなどが増えてきているようです。生で食べてもよいか心配になったら、店の人に尋ねてから買うことをオススメします。
刺身やマリネなど生で食べる時は、帰ったらすぐ傷みが早いハラワタ(内臓)を取り除き、よく洗い下処理をしましょう。ハラワタ(内臓)部分は生では食べないように!
アニサキスは熱には弱いのですが、酢締めしても死滅しないそうです。
サンマの栄養成分には、美容や健康に役立つものが多い
サンマの脂にはDHA・EPAが豊富に含まれている
不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(イコサペンタエン酸)には、アレルギー性疾患を改善する・脳細胞を活性化する・血液をサラサラにする効果があり、それにより動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞・高血圧の予防、認知症の予防にも効果があるとされています。
血液がサラサラと流れると、栄養をスムーズに取り込むことができるようになり、肌もふっくらと弾力を保ち美肌効果も期待できます♪。
サンマの脂は脂肪なのにダイエットの味方
サンマの脂は体内で固まらないので留まりにくく、脂肪を効率よく代謝するのに必要なビタミンB2も豊富なので、比較的太りにくい脂なのだそうです。ただし、摂り過ぎるとカロリー過多で太るので気をつけましょうとのこと(汗)。
サンマのタンパク質は良質なタンパク質
サンマのタンパク質には必須アミノ酸が全て含まれていてバランスがよく、皮膚や粘膜・筋肉を健康に保つことに役立つそうです。
他にも色々な栄養素が豊富
鉄分やカルシウム、抗酸化作用のあるビタミンA・ビタミンE・ビタミンDも含まれ、疲労回復・老化防止・風邪予防と、美容だけではなく健康維持にも期待が持てます。

美味しいサンマの焼き方
サンマが南下を始める初秋の頃はまだ脂が乗りきっていないので、サッパリと刺身で食べた方が美味しいという話もありますが、秋の風物詩といえば、やっぱり塩焼きですよね。
サンマには胃が無く、エサを食べてから排出するまで30分程度と短いので、内臓に排泄物が残らずえぐみが少ないそうです。にこぴんは塩焼きはハラワタまで食べる派で「この苦味が美味しいのよねぇ」と思っていたのですが、新鮮なサンマになるほど苦味はほとんど感じられないんだそうです(苦笑)。
ちなみに、ハラワタを食べていると赤い糸のようなものを見かける時があり心配になったりします。あれはラジノリンクスという名の寄生虫らしいのですが、派手な色のくせに何も悪さをせず無害らしい。
もう一つ、サンマの鱗は無いわけではありません。時々青く蛍光ペンで落書きしたようなものを見ますが、あれが鱗です。水揚げの時、擦れ合ってほとんど取れてしまうのだそうです。鱗や内臓やエラを取り出す手間もなく調理しやすい魚なんですね。
美味しいサンマを焼く下準備
さて、美味しいサンマを焼く下準備ですが、残った鱗を優しく包丁で除き、ぬめりやエラなどに血が溜まっていたらそれも流すように一度流水で洗い、キッチンペーパーで包むように水分をしっかり拭います。塩を20cmほど上から全体が薄く白っぽくなるほどまんべんなくかけます。それからその塩をサンマ上下全体に軽くすり込みます。15~20分ほど置いておき(旨味が増し臭みが無くなるそうです)、余分な水分をキッチンペーパーで取り除く。焼く前に酢を薄~く全体に塗ると、皮がパリパリに焼き上るのだそう。
七輪で焼く場合は風に注意
サンマの塩焼きでイメージするのは、庭で炭火の七輪で焼く光景だと思いますが、日頃七輪を使いこなしている人ならともかく、七輪で焼くのは(バーベキューも)火加減の調節がとても難しい。煙がいっぱい出るので外で焼くことになりそうですが、風のある日など下は熱い火で上は冷たい風に晒されてしまって、気をつけていないと一方だけ黒焦げで中は生焼けになる可能性があります。しっかり炭火を起こしてから、風のある日は板とか段ボールで風を遮るようにして注意深く焼くと、上手く焼けるかもしれません。
魚焼きグリルで焼く
魚焼きグリルで焼くのは、火加減の調整が容易なので七輪ほど難しくありません。
網に油をさっと塗り(皮が網に付きにくくするため)、グリルを強火で温めておく。中火で両面焼きグリルなら10分ほど、片面焼きなら5〜7分、ひっくり返して5〜7分、皮に焼き目がしっかり付くまで焼きましょう。
フライパンで焼く
今は「フライパン用ホイルシート」というのがあり、フライパンでもかなり上手く焼くことができます。グリルで焼くより少し皮のパリパリ感はなくなりますが、後片付けも楽なので忙しい日など便利かもしれません。
一尾丸々焼くのがいいのですが、無理そうだったら肛門から斜めに半分に切った方が焼き方にムラがでません。
グリルと違い中まで火が通りにくいので、中火~弱火で片面ずつ7~9分ほど、じっくり時間をかけて焼くのがコツです。蓋をすると蒸気がこもってしまい皮がベトっとなるので、蓋はしないようにしましょう。
薬味にスダチやカボス、大根おろしを添えましょう

脂っこいサンマの塩焼きと一緒に柑橘類(スダチ・カボス・レモンなど)や大根おろしを食べると、サッパリして美味しくなるうえに、栄養面でも良いことが色々あるそうです。
サンマなど青魚に含まれるDHA・EPAは酸素に触れるとすぐ酸化する性質ですが、柑橘類や大根に含まれるビタミンCには抗酸化作用があるため劣化を防ぎ、発がん性物質の生成を抑えてくれます。
また大根に含まれるアミラーゼという酵素にも、胃の消化吸収を助けたり、「焼いた焦げ」にある発がん物質を生成する成分を抑制する働きがあるのだそうです。
胃もたれしないためにも、大根おろしを一緒に食べるのは理にかなっているのですね。

サンマの不漁が多い理由
ここ数年、サンマの不漁が多くなっています。
大きな原因は、日本近海の海水温が高いこと。
温かい水を嫌うサンマが、このまま海水温が高い状態が続くと回遊ルートを変え、日本近海を南下しなくなっていくおそれがあるそうです。
もう一つの原因が、近年の和食ブームで海外でもサンマを食べる人が増え、台湾など外国の大型船が、サンマが南下を始める前の公海で、ごっそり獲ってしまっていて、サンマの量自体が減ってきているのだそうです。
日本もサンマ漁獲量確保のため、2019年より通年操業が解禁され、公海サンマ漁がスタートしたらしいのですが、あんまりうまくいってないようです。
養殖も難しいらしく…。
今は冷凍技術が発達していて冷凍モノでも不味いということはありませんが、サンマは日本近海の豊富なプランクトンを食べ、栄養や脂肪を蓄えながら南下します。それが脂の乗った美味しいサンマを育てているわけです。
同じプランクトンを餌にして温かい海水を好むイワシは、サンマほどは減少していないらしいのですが…。
管理人はイワシも好きですが、秋にはやっぱり、脂がたっぷりのってジューシーなサンマが食べたいなあ。
