ネバネバ・トロトロの食感に抵抗がなく、むしろ好きという人が、日本には多いですね。
山芋もそういう食材の一つ。
山芋の旬は冬の季節ですが、現在では貯蔵庫が整備されていることもあり、一年中食べられます。
芋類のなかでは珍しく生でも食べられ、サラダにするとシャクシャク、擦りおろしてとろろにするとネバネバやトロトロ、炒めるとホクホク、擦りおろしたものを焼くとフワフワになり、いろいろな食感が楽しめますね。
「山芋」で一般的には通じますが、山芋という品種は無いのだそうです。「山芋」はヤマノイモ科ヤマノイモ属に分類される芋類の総称で、店などで販売しているものに長芋・つくね芋・いちょう芋・自然薯がありますが、別の種類になるそうです。
びっくりしました! 私は今まで「自然薯は山に自生する天然芋で、長芋はそれを栽培できるように改良したもの」と単純に考えていたのですが、間違っていたようです。そもそも長芋と自然薯はルーツが違うらしいのです。
大きく分けると、ナガイモ種(長芋・つくね芋・いちょう芋)とヤマノイモ種(自然薯)になるそうです。
見た目の形が違うように、食べ比べてみると粘り度や風味も違うことが分かります。それぞれの特徴を知っていると芋の使い分けができ、料理がもっと美味しくなるかもしれません。
そこで今回は、滋養強壮にと昔から食べられてきた山芋(ヤマノイモ)の栄養価に加え、山芋の種類とその特徴についてまとめてみました。
山芋(ヤマノイモ)の種類とその特徴
長芋
一般的に一番出回っている、円筒状の50~80cmになる山芋です。スーパーなどでは短く切られて売られていることが多く、淡い茶色で、なんだかスリコギ棒に似ていますね。
中国原産で、中世以降に日本に入ってきたとされていますが、中国には長芋に似ている芋はありますが、長芋自体は確認されていないそうです。
現在日本で流通している長芋は、青森県の在来種を改良した「ガンクミジカ」など、日本産の品種が多く、「日本産ナガイモ」と呼ばれています。
ほかの山芋と比べると、粘りやアクが少なく水分量が多いので、あっさりとした食感が特徴です。
主な産地は北海道・青森県で、秋堀り(11~2月)と春堀り(3~5月)があります。
秋堀りは、掘りたての新物。とてもみずみずしいので、シャキシャキとした歯ざわりが楽しめます。
春堀りは、秋に収穫せずそのまま越冬させ休眠追熟させたもの。それによりうま味や甘みなどが凝縮され、粘りも秋堀りものより強くなっています。
長芋は基本的には水分量が多く粘りが弱いので、生でサラダや酢の物・和え物などにして食べるのに向いています。
とろろにする場合は、だし汁少なめ(ものによっては無くてもいい)にすると美味しく仕上がります。
つくね芋
ゴツゴツとしたこぶしのような形をしていて、水分が少なく粘りが強く、ほんのり甘いのが特徴です。旬は10~3月頃。
関西方面でよく出回っている種類で、兵庫県の丹羽芋、三重県の伊勢芋、奈良県の大和芋、石川県の加賀丸芋などがあります。
焼いたり煮たり、揚げ物などさまざまな料理に使え、加熱するとホクホクの食感になります。
もちろん、擦りおろして食べても美味しいです。擦りおろすと箸で全部持ち上げられるくらい粘りが強いので、そのままでも食べられますが、とろろとして食べるときは、だし汁や卵などで伸ばすと食べやすくなります。
また、お好み焼きなどの料理に混ぜ合わせると、フワフワモチモチな食感になります。
いちょう芋
根の先端が銀杏の葉のように平たく末広がりの形をしています。
長芋と肉質は似ていますが、長芋より粘りは強く、アクは少なく変色しにくいです。
主に千葉・埼玉・群馬などの関東地方で栽培されていて、旬は11~3月頃。
近年は品種改良で棒状のものも栽培されているそうで、見た目だけでは長芋と区別がつきにくいものもありますが、ラベルなどで確認できます。
関東では「大和芋」という名で売られていることもありますが、奈良県の大和芋とは別種です。
食べ方などは長芋などと同じですが、長芋より粘りが強いということを頭の片隅に置いて、購入もしくは調理をするといいかもしれません。
つくね芋全体も「大和芋」あるいは「山の芋」という名前で販売されていることがあり……なんだか、ちょっとややこしいですね。
自然薯
山野に自生する日本原産の山芋です。少しくねりながら地下に深く伸び、3〜4年かけしだいに太くなり、長さは1メートルにもなることがあります。
粘り気が強く、水分が少なく濃厚なうま味、独特の甘みを持っています。
旬は11~12月。天然の自然薯は掘り出すのに非常に忍耐と手間がかかるため、掘る人が減っていることもあり、とても希少。栽培方法も開発されていますが、栽培がかなり難しいらしく、流通量はやはり少ないです。
強い粘りと濃厚なうま味を味わえるので、擦りおろしたものを出汁などで伸ばしてとろろで食べることが多いですが、つくね芋などと同じように、いろいろな調理法で食べられています。
山芋に含まれる栄養素
含まれる栄養素は同じヤマノイモ科ということもあり、ほとんど違いはありません。
主に含まれている栄養素は、タンパク質や炭水化物、ビタミンB1・ビタミンB6・ビタミンC、ミネラル類もカリウム・マグネシウム・亜鉛・鉄、そして消化酵素のアミラーゼ(ジアスターゼ)、アミノ酸の一種・アルギニンなどです。
参考:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
カロリーは種類によって違う
含まれる栄養素はほとんど違いませんが、カロリーや含まれる栄養素の量には違いがあります。
100gあたりのカロリーは長芋・65kcal、つくね芋・123kcal、いちょう芋・108kcal、自然薯・121kcalとなります。
炭水化物量は、長芋・13.9g、つくね芋・27.1g、いちょう芋・22.6g、自然薯・26.7gなので、ダイエットに向いているのは、長芋かもしれませんね。
タンパク質量は、長芋・2.2g、つくね芋・4.5g、いちょう芋・4.5g、自然薯・2.8gとなり、つくね芋・いちょう芋には長芋・自然薯の2倍ほどが含まれています。
このような栄養素の量に違いがあるので、粘り度や食感、風味にも違いがでてきます。
山芋を食べることにより期待できる効能
山芋は、昔から「山薬」として漢方薬にも使用されてきたように、食べることにより嬉しい効果を期待することができます。
消化酵素のアミラーゼ・ジアスターゼで、胃腸での消化促進をサポート
ジャガイモやサツマイモなどの芋類には、生の状態では消化されにくいデンプンが含まれているため、生のまま食べると消化不良で腹痛や下痢などが起きる場合があります。しかし山芋にはデンプンを分解するアミラーゼ・ジアスターゼなどの消化酵素が多く含まれているので、生でも食べることができるのだそうです。
消化吸収をサポートし、胃腸の働きを活発にしてくれる働きがあるので、疲れた胃を助けたり、摂取した栄養をより吸収できるようになります。
そのため、新陳代謝が活発になり、疲労回復や滋養強壮、また免疫調整機能の向上に効果が期待できます。
デンプンの多いご飯やうどん・蕎麦などの麺類に、擦りおろしたとろろをかけて食べるのは、理にかなった食べ方といえるでしょう。
コレステロール値を低下させる効果
山芋には、悪玉コレステロールを排出し低下させる働きのある水溶性食物繊維、植物性タンパク質、抗酸化作用のあるビタミンCなどが含まれています。
サポニンという成分も含まれていて、これには脂質を溶かす働きがあるため、余分な脂質の吸収を抑える働きが期待できます。サポニンには血栓の生成を抑制する働きや、過酸化脂質の蓄積を抑制する強い抗酸化作用もあるとされています。
これらが、コレステロール値を低下させるように働いてくれます。
高血圧や動脈硬化を予防する効果
山芋には余分に摂りすぎたナトリウム(塩分)の排出を促し、高い血圧を改善するように働くカリウムが豊富に含まれています。
カリウムは、上記4種の山芋の中では、つくね芋・いちょう芋に比較的多く含まれています。
コリンというリン脂質の脂質の一種も含まれており、これは血管を拡張させて血圧を下げるアセチルコリンと呼ばれる物質や、細胞膜を構成するレシチンの材料になります。
レシチンは血中のコレステロールを溶かし、血液中のコレステロール値の調整に働きます。肝臓に脂肪が溜らないようにする働きがあるため、肝硬変や動脈硬化など生活習慣病の予防につながります。
血糖値の上昇を穏やかにし、腸内環境を整えて便秘や下痢を改善
食物繊維には水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」がありますが、ヤマノイモにはどちらも含まれています。
ヤマノイモのネバネバ成分は「マンナン」という水溶性食物繊維とタンパク質の混合したものです。
水溶性食物繊維には、食後の血糖値の上昇を穏やかにしたり、腸内の善玉菌を増やし腸内環境を改善する働きがあります。
不溶性食物繊維は、水分を吸収して膨らみ、腸のぜん動運動を促し便秘の解消に働きます。
食物繊維の含有量は、長芋よりつくね芋・自然薯の方が2倍ほど多いです。
レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)と呼ばれる成分も含まれています。レジスタントスターチは、炭水化物でありながら食物繊維と同じ働きをし、腸内細菌のエサになり便の量を増やすことで、これも便秘解消に役立ちます。
また、食物繊維もレジスタントスターチも、腸内をくまなく移動し消化吸収をゆるやかにしてくれるので、食後の血糖値が急激に上昇することを防いでもくれます。
免疫調整機能力のアップ
免疫とは、細菌やウイルスなどの外部からの侵入を防いだり、 体でできてしまった健康を害する細胞を除去してくれる自己防衛機能のことです。その力が低くなると、疲れやすくなったり、風邪や花粉症などのアレルギーを引き起こすなど、病気になりやすくなります。
山芋のネバネバ成分には、免疫調整機能力を高めて疲労回復させる効果があり、ビタミンB1・ビタミンC・カリウム・アルギニンなども豊富に含まれています。また腸内環境が整うことは、免疫調整機能力のアップにつながります。
また、ディオスコリンAというタンパク質も含まれており、これにはインフルエンザの感染抑制効果が期待できることが、研究により報告されているそうです。
美容・美肌効果でアンチエイジング
山芋のネバネバ成分にはヒアルロン酸と同じようなの保水効果もあり、肌や粘膜を健康に保つ効果があります。
また、代謝に欠かせないビタミンB群(とくにビタミンB1)、抗酸化作用がありコラーゲンの生成を助けるビタミンC、保湿効果のあるアルギニンなど、美肌の維持に期待できる栄養素がたっぷり含まれています。
カリウムは、体内の余分な塩分や水分の排出を促してくれるので、むくみ改善対策になります。
水溶性食物繊維には、糖質の吸収を穏やかにして血糖値の急上昇を抑える働きがあることは上記にも書きましたが、摂取した糖が脂肪として蓄積されるのを防ぐことができると、ダイエットにも役立つことになります。
栄養を損なわずに摂取するには生がオススメ
このようにいろいろ嬉しい効能が多い山芋ですが、消化酵素のアミラーゼ・ジアスターゼやビタミンCなどは加熱に弱いため、栄養を損なわずに摂取したい時は、とろろやサラダ・和え物など、生で食べることをオススメします。
焼いたり炒めたりするとホクホク・フワフワと、生とはまた違った食感になり、これも美味しく捨てがたいのですが、栄養摂取を重視する場合は、あまり加熱しすぎないようにしましょう。
また、ビタミンB1・ビタミンC・カリウムなどは水に流れやすい特徴がありますので、汁物に入れたり煮物にした場合は、汁まで飲むようにしましょう。
山芋の保存方法
山芋は乾燥に弱く、保存の適温は2~5℃です。
購入した時、1本まるごとで土やおがくずがついている場合はそのまま、新聞紙やキッチンペーパーで包みビニール袋に入れ、乾燥しないように冷暗所で保存すると1ヶ月程度は日持ちします。冬場は常温保存もできますが、室内が5℃以上なら冷蔵庫の野菜室で。
カットされたものは、切り口から傷み始めるので、ラップで包みビニール袋に入れて冷蔵保存し、1週間を目安に使い切りましょう。
冷凍保存
冷凍での保存もできます。使う用途に合わせ、擦りおろしてとろろ状態や使いやすい大きさにカットして、変色防止に酢を入れ冷凍しましょう。1食分ずつ小分けにしていると、使うときに便利です。目安は約1ヶ月。
山芋を調理するときの注意点
山芋を切ったり擦りおろしたりすると、手がムズムズと痒くなった経験がある人も多いでしょう。
これは皮付近に多く含まれるシュウ酸カルシウムという成分の針状結晶が、切ったり擦りおろしたりする時に皮膚につき刺さることが原因で、刺激が起こり痒くなるのだそうです。
手に痒みを感じたら、流水で十分に洗い流してください。そのときお湯・酢・塩などで手を洗うとより効果的です。
山芋を調理するときには調理用手袋などを着用したり、山芋を事前に酢水に漬けておくと痒みを感じにくくなるそうです。
山芋を食べると口の周りが痒くなることもありますね。
その場合は、1.とろろや和え物に酢やレモン汁を調味料にプラスする。2.シュウ酸カルシウムは皮付近に多く含まれているので、皮を厚く剥き中心部のみを食べる。3.山芋を冷凍し、凍結状態で擦りおろす(そうすると針状結晶がポキポキ折れてしまうので、皮膚に刺さりにくくなる)などの方法で食べると、痒みがやわらぎます。
アレルギーに注意
山芋を調理するときに、シュウ酸カルシウムが原因で痒くなるのは「山芋アレルギー」ではありませんが、山芋は厚生労働省により「特定原材料に準ずるもの」に指定されていて、アレルギーを引き起こすことがあります。もしやと思われる方は診療を受けてください。
そして、山芋アレルギーのある方はお召し上がりにならないように。また、アレルギーのある人に無理に食べさせないようにしましょう。
皮を剥いて赤くなった部分も食べられる
皮を剥くとすぐに赤茶色になってしまいますが、これは山芋に含まれるポリフェノール(チロシン・クロロゲン酸)が酸化するためで、鮮度が落ちたわけでも栄養価がなくなったわけでもないので、食べても問題ないそうです。
しかし見た目が悪くなってしまうので、それが気になる場合は、皮を剥いたりカットしたりしたらすぐに酢水・塩水に浸しましょう。そうすると変色を防ぐことができますが、あまり浸しすぎると栄養や風味が流れ出てしまうので、5分くらいでOK!です。
山芋のアクも、同じようにポリフェノールが酸化して出てきたものなので、食べても体に害はないそうです。
皮ごと食べた方が、栄養も風味も増す
山芋は皮ごと食べることができます。
自然薯は皮が薄いので昔から皮ごと食べられてきましたが、最近の長芋なども皮が薄くなってきているので、あまり抵抗なく食べられるようになってきました。
見た目は若干悪くなりますが、山芋の皮には食物繊維が多く、抗酸化作用のあるポリフェノールやβ-カロテンも含まれているので、皮ごと食べた方が栄養価も高くなりますし、山芋本来の粘り気や風味などの美味しさを味わうことができます。
なにより皮を剥かずに擦りおろせば、ヌルヌルしないのでおろしやすいですし、手が痒くなることも防げます。
※皮の内側に痒みを引き起こすシュウ酸カルシウムが含まれてはいますが、これは消化吸収されずに排便されるので、食べても尿路結石症などの心配はないそうです。
皮ごと食べる際は、土壌菌が付いていることもあるので、水できれいによく洗い、ひげ根はキッチンバサミで切り落とすか、コンロの火でさっと炙り取ると、食感が良くなります。
むかごも食べられる
むかごから種芋を作ると聞いていたので、私はなんとなく「むかごは山芋の実で中に種子がある」と考えていたのですが、これも全く間違っていました(泣)。むかごとは別に種子はあります。
むかごはツルと葉の付け根にできる、養分を貯えた1~3cm程の小さな球状の肉塊。
山芋の風味が凝縮されたような素朴な味わいで、生でも、皮を剥かずに塩茹でや炊き込みご飯などにしても、美味しく食べられます。含まれる栄養成分や風味も、山芋と全く同じだそうです。
旬は8月下旬~9月中旬頃と短く、むかごができない種類もあるので、けっこう貴重な食材です。
まとめ
「山芋」に関しては、今まで勘違いしていたことが多くて、そのことに私自身一番驚きました。…調べてみるもんですね~。
長い歴史の中、栽培や販売される地域の違いなどで、名前がごちゃごちゃになってしまった感のあるヤマノイモ科の芋達ですが、粘り気や食感が違いますので、それぞれの料理に合った種類を選んで、より美味しく食べていけたらいいですね。
出典・参照させていただいたサイト:
IKI 自然薯と山芋の違いって何?
NANIWA SUPLI MEDIA 山芋の栄養と効能・調理法・保存法
シンクヘルスブログ 長芋のすぐれた栄養成分
わかさの秘密 山芋
暮らしーの 山芋の栄養が凄い!その成分や健康に与える効果・効能を解説!