日本の料理、とくに和食の基本となる五つの調味料「さしすせそ」のひとつでもある「酢」。
(※「さしすせそ」は、さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=醤油、そ=味噌ですね)。
味を決める重要な調味料のひとつであるだけでなく「酢は体にいい」ものとして健康食品の顔も持っています。
「体にいい」ということは知っていても、具体的にどういう健康効果が期待できるのかについては曖昧だったりしているので、酢についていろいろと調べてみました。
酢の歴史
酢は、紀元前5000年頃にはナツメヤシや干しぶどうを原料とし造られていたという記録が残っており、人間が造った最古の発酵調味料といわれています。
蓄えていた果実が自然にアルコール発酵し、そこに酢酸菌が働くことで酢が出来ることを発見し、酢造りが誕生したようです。
紀元前4000年頃には、ワインなどから酢を造り保存食としてピクルスを漬けていたらしく、その頃から「酢は健康にもよい」ということが判明しており、疲労回復のために水で割って飲んでいたり、中国でも漢方薬として重宝されていました。
日本には4~5世紀頃中国から伝わり、和泉の国(現在の大阪南部地方)で造られるようになったのが始まりとされていて、奈良時代には上流階級の間で、高級調味料として用いられていました。
醤油・味噌とともに庶民にまで普及したのは江戸時代。
1800年代、江戸では高級な米の代わりに酒粕から造った「粕酢」が使われるようになり、すぐにパクリと食べられる屋台形式の握り寿司は、江戸前寿司として江戸庶民の間で大変な人気の食べ物になりました。
酒粕から作られた粕酢(赤酢)は、米酢よりも味や香りが強く、それでいてまろやかなので、今でも江戸前寿司のお店では使っているところが多いようです。
糖分を持つ穀物や果実から酢が出来るまでにアルコール発酵という過程があるので、酒のあるところには必ず酢があるということになります。
それで、世界には4000種類もの酢があるとされています。ビックリですね。
ワインをよく飲むフランスやイタリアではワインビネガーやバルサミコ酢、リンゴ酒が造られるフランスのノルマンディ地方ではシードルビネガー、ビール醸造が盛んなイギリスではモルトビネガー、紹興酒が造られる中国では香醋、日本酒をよく飲む日本は米酢という具合です。他にもココナッツやバナナ、最古に酢が造られたとされるナツメヤシなどからも酢は造られているそうです。
食酢の種類
食酢は穀物や果実を原料とし、それを「アルコール発酵→酢酸発酵→熟成」という工程で造られます。
原料食酢の分類は、農林水産省が定めた「食酢品質表示基準」では、大きく醸造酢と合成酢の2つに、その醸造酢は穀物酢と果実酢に分けられます。
醸造酢
穀物、果実、野菜、その他の農産物(さとうきび等)、はちみつ、アルコールを原料としたものを、酢酸発酵させた液体調味料であって、かつ氷酢酸、酢酸を使用していないもの。
穀物酢
醸造酢のうち、米・小麦・大麦・酒粕・コーン等の穀物を1種または2種以上使用したもの(穀類、果実以外の農産物、はちみつを使用していないものに限る)で、その使用総量が醸造酢1ℓにつき40g以上のもの。
米酢
米(精米)の使用量が穀物酢1ℓにつき40g以上のもの。
原料に米だけを用いたものが「純米酢」、他の穀物を加えたものは「米酢」と表示されます。
米特有のまろやかさと甘みがあり、和食との相性がいいので、酢飯や酢の物に向いています。
米黒酢
原料として玄米のぬか層を完全に取り除いていない米、又はこれに小麦・大麦を加えたもののみを使用したもので、米の使用量が穀物酢1ℓにつき180g以上で、発酵及び熟成により褐色又は黒褐色に着色したもの。
まろやかな酸味と甘みがあり濃厚なコクで、必須アミノ酸がバランスよく含まれています。
1年より2年、2年よりもっと熟成期間が長くなるにつれ、色も艶のある濃い黒褐色に、独特のまろやかな香りやコクのある風味も強くなっていきます。
酸味があるので、そのまま水や炭酸水で割るだけでは飲みにくいですが、はちみつや他の飲料を混ぜると、米黒酢の風味と味わいを楽しみながらも飲みやすくなります。
大麦黒酢
原料として大麦のみを使用したもので、大麦の使用量が穀物酢1ℓにつき180g以上で、発酵及び熟成により褐色又は黒褐色に着色したもの。
米黒酢よりもさっぱりとした味わいが特徴。アミノ酸や、ミネラルのカリウムが豊富で、マグネシウムも微量ですが含まれています。
果実酢
醸造酢のうち、果実を1種または2種以上使用したもの(穀類、果実以外の農産物、はちみつを使用していないものに限る)で、その使用総量が醸造酢1ℓにつき300g以上のもの。
原料が果実なので、それに含まれるポリフェノールやビタミン・カリウムなども摂取できます。
りんご酢(シードルビネガー)
りんごの搾汁の使用総量が、果実酢1ℓにつき300g以上のもの。
フルーティーなので、ドレッシングやドリンクとして飲むのに向いています。
ぶどう酢(ワインビネガー)
ぶどうの搾汁の使用総量が、果実酢1ℓにつき300g以上のもの。
赤ワインビネガーはコクや渋みがあるので、肉料理との相性がいいです。白ワインビネガーは赤より爽やかな酸味が特徴で、魚介類との相性がよくカルパッチョやマリネなどに向いています。
合成酢
氷酢酸又は酢酸の希釈液に砂糖類、調味料、食塩等を加えたもの。又はこれらに醸造酢を加えたもの。
生産量が少なく、家庭用として使われることはほとんどありません。
その他の酢
バルサミコ酢
白ぶどう果汁を煮詰めて長い期間熟成させたもの。
原料がぶどうという点はワインビネガーと同じですが、ワインビネガーはワイン酒から酢酸菌の力で造る酢なので、製法が違います。
色が濃く、濃厚な味わいで苦味がなく甘酸っぱさが特徴。ドレッシングにも使えますし、煮詰めるとトロリとしたソースに仕上げることができます。
もろみ酢
泡盛の製造過程で生まれるもろみかすが原料で、主成分がクエン酸で酢酸発酵で造られていないため、食酢には含まれません。
しかし、クエン酸やアミノ酸は豊富です。食酢は酢酸の成分が主体であるため、胃を荒らしたり、鼻にツンとくる酸味がありますが、もろみ酢は胃を荒らしたりツンとくる酸味がないので、水などで希釈することなくそのまま飲むことができることが利点です。
梅酢
梅干しの製造過程で生まれる酢で、梅の栄養成分がたっぷり含まれています。酢酸成分はないので、これも食酢には含まれません。元々、梅酢造りが主で、梅干しはその副産物だったようです。
加工酢
食酢に醤油・砂糖・香辛料等を加えて味を調整したもので「調味酢」あるいは「合わせ酢」とも呼ばれています。
「すし酢」「三杯酢」「たで酢」等がありますが、食酢とは区別されているようです。
酢に期待できる健康効果
疲労回復や元気な体作り
酢はすっぱく、臭いを嗅いだだけでも唾液が出てくることがありますね。酢の酸味には唾液や消化液の分泌を高める働きがあり、夏バテなどで体がだるい時も、食欲を増進させてくれます。
そのすっぱい味のもとは、酢酸やクエン酸、タンパク質を構成するアミノ酸など60種類以上の有機酸です。
体の中で「クエン酸回路」と呼ばれる、摂取した食べ物の栄養を効率よくエネルギーに変える仕組みがありますが、有機酸はそのクエン酸回路を活発にする潤滑油のような働きをします。
酢が体のエネルギーになるのではなく、摂取した糖質・脂質・タンパク質を効率よくエネルギーに代謝することを活発にしてくれるということです。
酢を摂取すると、クエン酸回路にいろいろな種類の有機酸が補給され、代謝が活発になりエネルギーが生まれ、疲労の元になる乳酸の蓄積を防いだり、溜まってしまった乳酸の分解を促します。
その働きでスタミナがアップし、疲労回復や自然治癒力を高めることにつながります。
また、クエン酸は体に吸収されにくいカルシウムやマグネシウムなどのミネラルと結びついて、吸収されやすい形に変えてくれます(キレート作用)ので、丈夫な骨作りや骨粗しょう症予防にも貢献します。
高血圧や血中過酸化脂質を下げる効果
お酢を毎日少しずつ飲み続けると高い血圧が下がるといわれています。
酢に含まれる酢酸が代謝される際に、血管を拡張させるアデノシンに働きかけ、血圧の上昇を抑える効果があることが科学的に立証されているそうです(※正常な血圧の人の血圧は低下しません)。
酢酸には、血中過酸化脂質が高い場合に低下させる働きがあることも判明しています。
また、塩分の摂りすぎも高血圧の原因のひとつとされていますが、料理に酢を加えると味にコクが出るので、塩分の量を少なくすることができます。
高血圧や過酸化脂質が下がると、心筋梗塞や脳卒中などの予防にもなります。
腸内環境の改善
酢には抗菌作用があるので、腸内の悪玉菌を減らしてくれます。そして、酢に含まれている「グルコン酸」が腸内の善玉菌のエサになり、善玉菌が増えて活動が活発になることで、腸内環境が改善されます。
改善され腸粘膜が元気になると、便秘解消に働いたり、ウイルスや病原菌から体を守る機能がアップするそうです。
美容効果
酢には、過酸化脂質の上昇を抑える働きや、ビタミンCを壊してしまう酵素の働きを弱めてくれる作用があるため、美容やアンチエイジングにも効果があるとされています。
上記した腸内環境の改善も、美容効果に期待ができる理由のひとつです。
ダイエット効果
酢酸には脂肪の蓄積を抑える効果があります。
クエン酸はクエン酸回路を活発にし、体内の脂肪をエネルギーに変えて消費し、アミノ酸はその脂肪の燃焼を促す効果があるとされています。
また、酢を毎日摂ることで内臓脂肪を減らす働きがあることも判明しています。
内臓脂肪が溜まると高血圧や高脂血症・高血糖などを引き起こしたり、さらにメタボリックシンドロームにつながります。酢は肥満防止や生活習慣病予防にも効果が期待できます。
料理調味料としてのメリット
殺菌、防腐する
酢は殺菌力が強いので、しめ鯖のように魚を酢でしめたり、ピクルスのように野菜を酢に漬けると、保存性がよくなります
塩分を控えめにできる
上記にも書きましたが、美味しいと感じる味は塩分量が多めになりがちなので、近年の食生活は塩分摂りすぎの傾向があり、高血圧などいろいろ体に悪影響があるといわれています。
お酢を加えると味にコクが出るので、塩の量を抑えても、薄いと感じず美味しいと感じることができます。
酸味をつける
すっぱい酸味は唾液や消化液の分泌を高める働きがあるので、食欲を刺激します。酢豚やマリネなどの料理がそうですね。
こってりした肉料理などでも、さっぱりとした味わいになり食べやすくしてくれます。
肉や魚の骨を軟らかくする
酢にはタンパク質を分解する作用があり、硬い肉を料理する時、酢を使うと軟らかく仕上がります。
カルシウムを溶かす作用もあるので、魚の煮物などに酢を入れれば、小骨が軟らかくなり食べやすくなります。
臭みをとる
魚を酢で洗ったり、しめたりすると、魚の臭みの元であるトリメチルアミンに作用して、臭みをとってくれます。
素材の色を保ち、または引き出して鮮やかにする
酢には、素材の色を保ったり、引き出す効果があります。
ミョウガやニンジンなどの色素に、酢の成分が働きかけることにより、色を鮮やかにします。
ゴボウやレンコンなどのアクの強い野菜を酢水にさらしたり、茹でる時に酢を加えると、アクが抜けて変色を防いでくれます。
タンパク質を固める
酢にはタンパク質を固める作用があるので、魚などの表面のタンパク質を固めて煮くずれを防いでくれます。
ポーチドエッグを作る時にお酢を使うと白身が固まってきれいに仕上がるのもその作用があるからです。
加熱しても栄養成分は変わらない
加熱するとツーンとする香りの成分は揮発するので酸味はやわらかになりますが、酢に含まれるその他の栄養成分は変わりません。
酢の保存方法
酢は殺菌効果に優れていて基本的には腐りにくい調味料なので、賞味期限内であれば、日の当たらない冷暗所なら常温保存で大丈夫です。
しかし、腐りにくいとはいっても酸化はします。夏など気温の高い時期は、冷蔵保存する方が鮮度が保てます。冷たくする必要はないので冷蔵庫の野菜室でいいでしょう。
穀物酢や米酢を冷暗所で保管していた場合は、開栓後約半年、冷蔵庫であれば1年が目安です。
黒酢やリンゴ酢は、冷暗所で保管していた場合、開封後約3ヶ月以内、冷蔵庫で半年以内を目安に使い切るのがよいそうです。
加工酢(調理酢)やドリンクで飲みやすくしたものは、砂糖や出汁、果汁などが入っていて傷みやすいので、賞味期限や製品に記載された保存方法をきちんと守りましょう。
食酢をドリンクで飲む場合の注意点
「体にいい」ということで、すでに食酢を毎日飲んでいるという方も多いと思いますが、食酢は刺激の強い液体なので、ドリンクとして飲む場合には、いくつかの注意点があります。
- まず、必ず薄めて飲みましょう。
- 空腹時に飲むと胃が荒れたりするのでやめましょう。
- 貧血やリウマチの人はなるべく摂取を控えましょう。
などです。
一度に大量に飲んでも即効性は無く、逆に、歯が溶け出す、喉が炎症を起こす、赤血球が破壊されて貧血を起こす、汗とともに出る体臭がキツくなる、といった弊害が出てきてしまうおそれがあるそうです。
では1日にどのくらい飲んだらいいかというと、酢は薬品ではないので明確な量というのはないそうですが、だいたい1日に15mℓ~30mℓくらいを水などで薄めて飲むことを3~4ヶ月続けることで、高血圧に効果があるといわれているようです。
また、市販されている酢には食品添加物の入ったものもあります。そういうものには健康効果は期待できないので、健康のために酢を飲むのであれば、購入するときに原材料を見て、食品添加物の入っていないものを選ぶようにしましょう。
酢の効果を発揮させるには
ここまで、酢の持つ健康効果を中心にまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?
酢にはいろいろな素晴らしい効果が期待できますが、酢を摂取しただけでは健康に役立つというわけではない、ということが分かりました。
あくまで「バランスのとれた食生活をする」のが大前提で、そこに「酢」を加えると、より健康的な生活が期待できるようになるということなので、適量を美味しく、料理に使ったりドリンクとして飲んでいきましょう。
出典・参照させていただいたサイト:
全国食酢協会中央会全国食酢公正取引協議会
びんちょうたんコム「酢は体にいい」と言われるのはなぜ?
株式会社 日本自然発酵 お酢物語
わかさの秘密 酢
ウチコト 酢の保存